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恋に落ちて 〜織田信長〜

第53章 秀吉のぼやき ④



ある女性とは、葵の事だ。


アヤが、葵の父上に女中と間違えられ斬られそうになった事件を境に、俺たちは少しずつ距離を縮め、時間が合えば、逢瀬を重ねている。


ただ、まだ恋仲と呼べるほどの男女仲ではない。

つまり......してないわけだ。

いや、正確には一度だけ、男女の仲になった事があるが、それには理由があった.......

俺は、信長様の妹君であるお市様にずっと想いを寄せていた。

信長様に似て聡明でお綺麗なお市様は、城にいる者全ての憧れの存在だった。信長様の他の妹達が皆どこかに嫁いでいるのに対し、お市様だけはいつまでたってもお輿入れの話が浮上しなかった為、これはいつか俺たち武将の誰かに嫁がせてやろうとお考えなのではと、俺は勝手に考え、武功を立てることに必死になっていた。

最初に断っておくが、これは俺の完全なる片思いで、お市様は俺なんか全く眼中にはなかった。

だが、武功を挙げて、信長様の側近になり、もしかしたらと考えていたことも確かで...

だから、お市様が浅井長政のもとへお輿入れが決まった時は本当に悔しくて......
手当たり次第に女を抱いて寂しさを紛らわせた。

葵もその内の一人で、俺を好きだとずっと言ってくれていた葵を、悲しみや苛立ちをぶつけるように抱いた。

当時は彼女に対して特別な感情はなく、一夜の関係として俺の中では終わっていたが、三年ぶりに会った葵はまだ俺に思いを寄せてくれており、そんな彼女の健気さと、三年という月日で、凛とした綺麗な大人の女性へと成長した葵の存在が、俺の中で少しずつ大きくなっていった。


初めは、行儀見習いでのアヤの報告を聞くために定期的に会っていたが、今は葵との時間が俺の癒しの時間になっている事は確かだ。

正直言って、抱きたい。

彼女の髪や肌に触れ、甘やかしてやりたい。

だが、一度戯れに抱いてしまい傷つけた彼女が、俺を再び受け入れてくれるのか、例え受け入れてくれても、俺は信長様にこの命を捧げていて、葵を幸せにしてやる事は出来ない。

こんな中途半端な気持ちを持て余している事を、信長様は気づかれたのだ。

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