第53章 秀吉のぼやき ④
だがしかし!
そんな事よりも俺は今悩んでいる。
と言うか、信長様の一言でかなり揺れている。
それは、アヤと信長様が婚姻を結び旅から戻った夜の祝いの席での事。
宴の時間も過ぎて行くと、信長様は周りも気にせず(どんな時も気にしていないが)アヤの頬や耳に口づけたり、髪をやたらと梳いては引き寄せその髪に口付けたりと、密着度が増していき、皆の視線もそこに集中し出した。
赤い顔で必死で耐えるアヤを見かねて、俺は、宴のお開きを申し出た。
「信長様。夜も更けてまいりましたし、そろそろ」
「そうだな、アヤ天主へ戻るぞ」
「はっ、はいっ」
信長様は男盛りで、好いた女とやっと添い遂げられたばかり。アヤと片時も離れたくないのは当たり前だ。多少の事は目を瞑ろうと思った。
だけど、信長様の行為は俺の上をいった。
「こっちを向け」
恥ずかしげに俯くアヤに信長様は声をかけた。
「えっ........っ」
アヤが振り向く間も無く、信長様はアヤの顎を掴みペロンと唇を舐めた。
「なっ、なっ、えっ?」
アヤの顔が一気に真っ赤になる。
流石の俺も一瞬固まったが、
「コホン、えー信長様、ですから家臣の前であまりそのような事は」
すぐに自分を取り戻し、苦言を呈すと、
「ふんっ、貴様も身を固めたらどうだ?少しはその堅物さが取れて丸くなるやもしれん」
そう言いながらアヤを抱き抱えた。
「俺の生涯は、信長様に捧げております。妻を娶る気はありません」
この命、とうの昔に信長様に捧げている。
「そうか。俺が知らぬとでも思っているのなら、やはり貴様はサルのままだな」
「っ........」
............動揺した。
そう、信長様は気づいている。
俺が、ある女性に特別な思いを抱いている事を.......