第53章 秀吉のぼやき ④
安土はここの所、ちょっとしたお祭り騒ぎになっている。
それは、アヤが信長様の正式な妻として迎え入れられたからだ。
アヤが安土に来てからと言うもの、城下の治安は良くなり(あいつがよく攫われて警備を強化したから)、信長様の雰囲気も柔らかくなり(所構わずアヤとべたべたする姿が反対に好感を呼んでいる)、街全体が活気に満ちた事もあって、アヤは民衆から大きな支持を得ていた。
だからこそ、アヤが毛利元就に攫われいなくなった時は。怒り狂った民衆が城に詰めかけ、中国攻めを訴えて来て大変だったほどだ。
信長様も、アヤのいない一年はすっかり笑わなくなった。いや、元々信長様は笑ったりしない。信長様が優しく顔を綻ばせるのは、アヤにだけだ。
だからアヤが居ない一年は、言わば、元の俺たちの生活に戻っただけの事だと......そう思おうとしたが、一度知ってしまった事をなかった事にすることは難しく、アヤの存在は俺たちの中で、とても大きなものになっていたのだと思い知らされた。
アヤは一年で戻る。
信長様にそう聞かされた次の日、俺は信長様に天主に呼び出された。
「アヤが戻り次第、俺の妻とする。正妻とする了承を全ての者から取れ」
この言葉を待っていた俺は、二つ返事で動き出した。
当初、苦戦すると思っていた署名集めは、誰も異を唱える事無く署名をする結果となり、誰もが、信長様にはアヤが必要なのだと認めた瞬間だった。
そして一年が経ち、アヤは呑気に安土へと戻り、信長様と無事婚姻を結んだ。
その事が城下へ知れ渡ると、城には様々な祝いの品が届き、あちらこちらで勝手に二人の婚姻を祝福する宴が日々開かれ、城下は今なおとても賑わっている。
当のお二人は、以前にも増して城のそこかしらでベタベタベタベタ.....
だが、信長様の本当に満ち足りて幸せそうなお姿を見る事ができて、俺は感無量だ。(城の雰囲気も戻ったし)