第52章 安土の奇跡
〈アヤ、ありがとう〉
また、さっきのように頭の中から声がした。
今度は信長様にも聞こえているみたいで、信長様も私の手を握りながら、天使を見つめている。
〈これで帰れる。アヤのおかげだよ〉
「間に合う?」
〈大丈夫、間に合うよ。冬の水の中は寒かったでしょ?ごめんね〉
「私の事は大丈夫。気をつけて帰ってね」
〈お礼に、アヤの願い事を一つ叶えるよ。教えて〉
「願い事?」
〈何でもいいよ。永遠の命でも、美しさでも〉
「ふふっ、ありがとう。でも願い事は叶ったからいいの」
大好きな人と、これからの人生をずっと一緒に生きていけるから。
〈そっか、でも何もお礼をしないのは僕も嫌だから、勝手に一つアヤの喜びそうな事を叶えて行くね〉
「え?」
そう言うと、天使は私達の頭の周りをくるくると飛び回った。
信長様と一緒に見上げると
「わぁ」
空から雪が舞い降りて来た。
〈ありがとうアヤ〉
天使はそのまま流れ星のように、夜空へと消えていった。
水晶の天使は消えてなくなり、私と信長様はべたべたに濡れて城へ帰り、やはり秀吉さんに怒られた。
天使の降らせた雪は、そのまま次の朝まで降り続き、クリスマスイブの安土を白く染めた。