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恋に落ちて 〜織田信長〜

第52章 安土の奇跡



「奥方様、遠慮はいりません。信長様にはいつも贔屓にして頂いておりますので。それに、貰っていただけないと、この置物も蔵の深くに置き去りにされて終わってしまいます」

「そうなんですか?こんなに可愛いのに」

遠く離れた国から日本に来てくれた水晶の天使。何だか、このままお蔵入りは気が引けた。それに明日はクリスマスイブだ。この時代はクリスマスなんてないから忘れてたけど、外国のものに、しかも天使に会えるなんて何だか縁を感じた。

「信長様、私......頂いても良いですか?」

隣に立つ信長様の手を握って気持ちを伝える。


「ふっ、貴様ならそう言うと思った」

信長様は、優しく手を握り返し、商人の人から水晶の天使を貰ってくれた。


お互いこの時間はまだ仕事中という事もあり、天使の置物はひとまず、信長様の机に置いて、夜に二人でじっくり見ることにした。


当初の目的である、着物のピースを天主で発見した私は、急いで針子部屋へと戻った。



・・・・・・・・・・

針子部屋での今日の話題は、今城下で流行っている病の事。

症状としては、なんの前触れもなく突然高熱が出て、喉の痛みや頭痛、節々の痛みや悪寒など、人によって異なるが、三〜四日程続くらしく、人によっては死に至ることもあるらしい。

この病がこの一週間でかなりの人に広がりを見せていて、町は今、騒然としている。


聞く感じ、現代で言うインフルエンザっぽいんだけど、予防接種も、抗生物質などもないこの時代は、ただ熱が下がるのを待つのみで、小さな子供やお年寄り、栄養状態の良くない人達にとっては、生きるか死ぬかの瀬戸際に立たされている。

信長様は、すぐに臨時の療養所を何ヶ所かに設け、医師と衛生管理の手配を行い策を講じたけど、中々功を奏さない。それ所かどんどん疾病患者が増えており、私は外出禁止令を出されていた。


城下の人が苦しんでいるのに、お城の中で何もしないのは耐えられず、ある程度のニュースで得たインフルの知識を家康に伝えて対策を講じてもらい、私は針子たちと一緒に、看病に使う手拭いや、療養中の着替えとなる小袖を製作して、どんどん療養所に運んでもらっていた。


現代においても、インフルはこじらせると死に至ることもあるのに、この時代はもっと深刻だ。

信長様は連日、この件の対策に追われていてとても忙しそうだった。


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