第52章 安土の奇跡
「お仕事中失礼しまーす」
針子の作業中、着物のパーツが一片足りず、周りを探しても見当たらないので、もしやと思い、天主に探しに来た。
この時間は、信長様も天主でお仕事をされていることが多いから、邪魔にならない様にこっそりと部屋へ入った。
ん?
部屋の中には信長様と、南蛮品を良く売りに来る商人の方が。
「アヤ、ちょうどいい、こっちへ来い」
「?はい?」
(何だろう)
信長様に呼ばれ隣に行くと、信長様の机の上に見たことの無い透明の置物があった。
「これが何か、貴様は分かるか?」
置物に手をかざして私に見える様に置き直した。
「クォーツ.....じゃなくて、水晶で出来た天使ですか?」
20センチほどの高さのそれは、天使の形をした水晶の置物だった。
「天使とは天子の事か?」
「いえ。そっちの天子ではなく、この天使はエンジェルと言って、神様の使いとされている、羽の生えた子どもの様な姿をした者です」
「あぁ、そうです。確か、あんじゅ、とか何とかって言ってました」
商人の人も思い出したように呟いた。
(アンジュは確かフランス語読みじゃなかったかな.....じゃあこの子はフランスからこの日本にやって来たんだろうか)
あれっ?
「でもこの子、羽が片方欠けてしまってますね」
綺麗な輝きを放つその天使の片羽が、何処かにぶつけたのか、根元から割れた様に無くなっている。
「そうなのです。船から降ろす時に何処かにぶつけた様で、積荷を確認した時にはすでに片翼で。こうなると売り物にもならないので、いつもご贔屓にして頂いている信長様に貰って頂こうかと。大きさと透明度だけですと、水晶としてはかなりの値打ちがあるので」
確かに、こんなに大きな水晶は占いの人が持ってる位なイメージだな。
「貴様が気に入ったのなら貰うが、どうだ?」
「えっと、でも....頂くのはなんだか...」
きっとすごく高いよね。羽が欠けているとは言えタダで貰うのは申し訳ない気が。