第51章 眠れない日々
安土に戻ると、昼間だと言うのに夜の様な薄暗さに包まれている。アヤが拐われ居なくなってまだ三日程だと言うのに、温もりが全く感じられない城内に、アヤの存在がどれほどのものだったのかと痛感させられる。
天主に戻れば、アヤがいつも座っている場所や昼寝をしている場所に目が自然と向く。
『信長様』
目を瞑れば、アヤの甘い声が聞こえてくる。
掛けてあるアヤの打ち掛けを抱き締めると、アヤの甘い匂いに包まれ、さらなる虚無感に襲われた。
夜になると更にアヤの残像に苦しめられた。
褥に横たわれば、アヤの残り香と幻聴の様に聞こえてくる甘い奴の囁き声。
やっと眠りに落ちれば、血を流し、泣きながら手を伸ばすアヤの手を掴み損ねた時の映像が夢となって何度も現れた。
「っ...............」
眠っている時間などない。
アヤを救えなかったのは己の弱さだ。
稽古場へと向かい、刀を振る。
俺は強いと、向かう所敵なしだと、慢心していた。
その結果がこれだ。
心から愛しいと、離さないと思った者を傷つけ手放した。
俺は、今以上に強くなる必要がある。
何人たりとも付け入る隙を与えないほどに、
愛する者を二度と手放さなくて済むように。
眠れぬ夜は、ひたすらに刀を振って己を磨いた。