第50章 初めての夜
針子部屋に行く途中の廊下でも嬉しさの笑いが止まらない。
本当に、結婚指輪の効果とは凄まじい。
恋仲だった時も大好きだったけど、そんなものでは言い表せない位の好きが溢れてくる。
指に光る指輪を見るたび、信長様の奥さんになったんだと実感し、信長様の指に光る指輪を見るたびに、信長様に愛していると言われているみたいな気になって、込み上げる嬉しさを抑えるのに一苦労だ。
10日前までここに住んでいた自分とは大きく違う。
こんなに幸せに包まれて戻れるとは思ってなかったから、本当に世界一幸せだ。
ふふっ、ふふふっと、気持ち悪いほどに笑いが止まらない。
我ながら単純だ。
「ご機嫌だな」
...............聞き覚えのある嫌味な声に振り返る。
(やっぱり)
「光秀さん」
「旅立つ前のお前とは別人の様だな、っと、今は奥方様だったか?」
口角を上げながら、さらっと嫌味を言う光秀さん。
うー、負けるもんか!
「ご心配をおかけしましたが、これからは信長様を支えて生きていきますので、よろしくお願いします」
「ククッ、心配なのはこれからだ。だが安心しろ。御館様の伴侶として立派に織田家を支えて行けるように、俺が直々に教育係を引き受けてやる」
「えっ?」
(心の底から遠慮したいんですが.........)
「まずは、その心の声を隠す事から始める必要がありそうだな」
(えっ!口に出してた?)
「しっかりと出ているぞ」
これ以上心の声が漏れない様に、バッと両手で口を隠した。
「くっ、教育のしがいがありそうだな。だが一先ず、おめでとうと言っておこう。良かったな」
優しく微笑みぽんっと私の頭を軽く撫でると、光秀さんは去って行った。
教育係って、何?
そんな物があるの?
しかも、光秀さんが?
結婚早々、早くも一つ目の試練(修行?)が訪れた気がした.........。