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恋に落ちて 〜織田信長〜

第48章 信長の許嫁



「はぁ〜」

さっきから、何度目の溜息だろう。

栗ご飯をもらいに行くまでは、いつもの信長様だった。何かあったのだとすれば栗ご飯をもらいに行っている間。

信長様は月華院様から、私の秘密を聞いたのかもしれない。


自分の荷物の風呂敷を解いて、隠すように底に入れてある小さな巾着袋を取り出した。

巾着袋の絞りを解いて中の物を手のひらに乗せた。

それは戦国時代に戻る前、慰安旅行に行く前に寄った婦人科でもらった低容量ピル。

銃で撃たれ、入院している際の精密検査で生理不順も指摘され、飲み始めたものだ。

たまたまあの日、病院に行ってから直接慰安旅行へと行った私は、半年分のピルを処方され、それをそのままこの時代へ持ってきていた。

低用量ピルは生理不順を規則正しい生理周期へと戻してくれるお薬である一方で、避妊薬としての一面を持っている。だから、服用している私が妊娠することはない。
私が、信長様に秘密にしている事だ。


安土城内では、どうやら内密に信長様の婚姻の準備が進められている気がしていた。
主だって動いているのは秀吉さんで、私に気遣ってか、何もないそぶりをしているけど、これは女の勘ってやつで、近い将来、信長様はご正室の方を迎え入れると思う。私は一年もいなかったわけだから、そんな動きがあったって全然不思議ではない。

信長様は素敵な方だから、きっとその方も信長様にすぐに夢中になる。
だから半年間子供を作らなければ、きっとご正室の方との間にお子ができ、事は上手く回るのではないかと思っている。

私は昼間、この事を月華院様に伝えた。だからお優しい月華院様の事だから、私を不憫に思い、信長様に話してしまったのかもしれない。それならば、信長様の不機嫌の理由も納得できる。
隠し事をする事を、何よりも嫌う方だから。


「はぁ〜」

もう、数え切れない程の溜息を吐きながら錠剤を押して、プラケースから取り出し、お水の入った湯呑みを手に取った。


「......それは、何だ」

突然聞こえた、地を這うような低い声。


「の.....あっ」

言葉を発するより早く、信長様は私の手から錠剤を奪い取った。


コロン.....と、その勢いで私の手から湯呑みが転げ落ちた。

水が溢れたから、早く拭きたいけど、目の前で私を睨み見る信長様から目を逸らせない。


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