第48章 信長の許嫁
「これは何かと聞いておる」
「っ、これは.....」
未だかつて、こんなに怖い顔の信長様を私は見たことがなくて、怖くて、震えて言葉が出てこない。
「全て、よこせ」
「っ....」
巾着袋を広げて中身を出したいけど、身体が、指が震えてできない。
「かせ」
待ちきれなかった信長様は、震える私の手から袋を奪い取り、中身をバラバラと畳の上に落とした。
落とされた薬は溢れた湯呑みの水の上に落ち、「あっ」と、反射的に薬を拾おうとした私の手を取って、信長様は私を畳に押さえつけた。
「っ....痛いっ」
今までも、何度か乱暴な態度を取られたことはあったけど、それでもあれは全部、手加減をしてくれてたのだと、今この手首の痛みで分かる。
ギリギリと手首は折れそうに強く掴まれていて、凍えそうなほど冷たい目が私を見下ろしている。
「貴様は俺のものだ」
渇いた声が、怒りの大きさを教えてくれているようで、ただただ恐怖で体がすくむ。
「アヤ」
こんなに冷たい声で呼ばれたことが無いほどの声が私の名前を呼ぶと、いつものように覆い被さり袷に手を入れ首すじに痕を落とす。
「アヤ、俺の子を産め」
「えっ?」
「俺を愛しているなら、俺の子を産め」
「っ......なに言って、そんなこと」
正気じゃない
「いっ、やめてっ、」
冷めた目で見下ろしながら、信長様の手は私の着物の裾を割って入り、まだ濡れていないそこに、強引に指を挿れた。
「やだっ、信長様、痛いっ、やめてっ」
怖い、どうして!?
指を抜いてくれたと思ったのも束の間、それとは比べ物にならない質量の、怒りを滾らせたものが、ピタリとそこに当てられた。
.........うそ
「俺を拒むな」
怒りを含んだ目に、本気で挿れる気なんだと悲しみが溢れた。
「っ、また、私を.無理矢理...抱く..の?」
あの日の様に無理矢理抱くの?
「っ..........」
信長様の動きが止まり、目を見開いて、泣き出した私の顔を見つめた。
「アヤ」
私の頬に手を当てた信長様は、私の名を呼び、一瞬苦しそうに顔を歪めた。
「.......出かける。貴様はもう寝ろ」
絞り出す様にそう言うと、信長様は部屋を出て行ってしまった。