第48章 信長の許嫁
月華院様と部屋を出て廊下を歩いていると、信長様が中庭に続く縁側で腰を掛けて待っていた。
「信長様っ」
「アヤ帰るぞ」
手が伸びて来たかと思うとふわりと体が浮いて、信長様に抱き上げられた。
「えっ!わっ信長様っ!下ろして下さい」
「だめだ、このまま連れて帰る」
「なっ、何言って、自分で歩けます」
「貴様は信用ならんからな。どこかに行ってしまわぬように抱きしめておかねば」
「どこにも行きませんってば、せめて、草履は履かせて下さい!」
ジタバタと、必死でお願いして漸く廊下に降ろしてもらった。
(もう、月華院様の前で、本当に恥ずかし過ぎる)
「クスクス、信長様、もう帰られるのですか?先ほどアヤが拾って来てくれた栗ご飯が出来上がっておりますし、離れを用意しましたので、今夜はお泊り頂いても良いのですよ」
月華院様は帰ろうとする信長様をお止めした。
「いや、今夜は宿を取ってある。気にするな、飯は包んでくれ」
信長様はその申し出を断った。
「.....そうですか」
月華院様がどことなくお寂しそうなのと、久しぶりに会って、信長様ともお話をしたいのではないかと思った。
「信長様、せっかくですから」
宿に泊まるのもここに泊まるのも一緒だと思うし、「泊まりませんか?」と言うと
「ここは尼寺、俗世を離れた尼たちに貴様の夜の声を聞かす訳にはいかん」
空気を読むことなく、ニヤリと口角を上げて信長様は笑った。
「わっ、月華院様の前で何て事言うんですか!」
慌てて信長様の口を閉じようと手を当てる。
「何だ貴様離せ、本当の事を言ったまでだ」
「だからってこんな所で、それに今夜くらい何もしなくたって」
この旅でずっとしてるし......
「阿保か、貴様を抱くのがこの旅の一番の目的だ」
気持ちいいくらい言い切られ、私はもうぐうの音も出ない。
もう顔を真っ赤にして俯くしかなかった。
「ふふっ、分かりました。では、栗ご飯は包ませましょう。アヤ、あなたが行ってもらって来てくれますか?」
こんな信長様に慣れているのか、月華院様は優しく微笑んだ。
「あっ、はい。では行って来ます」