第48章 信長の許嫁
「あの、その時信長様は?」
「結局、二度目に信長様に会ったのは、稲葉山城、あ、今の岐阜城を乗っ取った兄を討ったすぐ後だったの。お互い親兄弟を失った者同士、ここで一緒に暮らそうと言って下さったの」
信長様は、月華院様と夫婦になろうとしたんだ。
その事実に、情けないことに胸が少し痛んだ。
「でも、私はもう限界だった。あの頃の私は、自分がいると周りを不幸にするのではないかと思っていたから。このまま信長様と夫婦になっても、あの人を不幸にするのではないかと思って」
だから、出家という道を選んだ。
その後、稲葉山城に移り住んだ信長様は、名前を岐阜城と改め、月華院様のお父様の菩提を弔う寺を城の近くに建て、月華院様をそこに呼んだそうだ。
そして、信長様が安土に移るまでは、家族の様に接して来たのだと、教えてくれた。
何て言っていいのか分からないけど、信長様と月華院様の間には、私なんかでは太刀打ちできない絆の様なものがある気がした。
どんな形であれ、二人は一時、お互いの事を思い合い、行動したことがあった。
それもまた、この乱世では、愛情というものなのではないかと、私には思えた。
「アヤ、あなたの眼に映る信長様はどんな方ですか?」
全てを話し終えた後、月華院様が静かに私に尋ねた。
「信長様は、優しくて、強くて、深い愛情をお持ちの方です。たまに俺様で困った所もありますけど、城のみんなからも慕われていて、かっこよくて、私は大好きなんで.......っあ」
気がつけば、惚気みたいになってて慌てて口を塞いだ。
「っ、すみません」
惚気など聞きたいはずないのに。
「ふふ、信長様の事がとても好きなのね。安心しました」
「.......はい」
それでも、月華院様は優しく目を細め、笑ってくれる。本当に大人の女性だ。
「さぁ、籠も一杯になったし戻りましょうか」
「あっ、持ちます」
季節外れの栗拾いを終え、私たちは母屋へと戻った。