第48章 信長の許嫁
「.........私の事は、信長様から聞いていますか?」
暫くして、月華院様が口を開いた。
「あの......いいえ...何も聞いてません。ただ、ここに来る前にお市から伝言を頼まれたので、それで月華院様の事を初めて知りました」
「そうですか。お市はなんて?」
「二児の母になって元気です。と伝えて欲しいと」
「まぁ、もう二人目が。あの子が母なんて、月日が経つのは早いのね」
ふふっと、まるでお市を小さな少女の様に語る月華院様は、やはり大人の女性だと思った。
「アヤ、あなたの事は風の便りで聞いて知っていました。本能寺で信長様を助けて、その後、信長様の寵姫として安土で一緒に暮らしていると」
「.....あの」
どう、返答すればいいのか分からない。
「ふふっ、そうね。まずは私の話からしましょうか」
月華院様は優しく微笑むと、遠い目をしながら今までの事を話し始めた。
この美濃の地方を治める武将の娘として生まれた月華院様は、その頃は濃姫と呼ばれていた。
隣の尾張を治める織田家の嫡男、信長様との婚約が決まった時、信長様は14歳で、濃姫様は13歳だったと言う。
信長様は当時から尾張のうつけと言われ、周りの者は皆、濃姫様をお可哀想だと嘆かれたそうだが、自分の父が惚れ込んだ青年だと聞いて、会うのを楽しみにしていたと言う。
ただ、時は戦国時代。
この辺りは領土を巡っての争いが絶えず、結納の儀は執り行ったものの、二人の祝言は延ばし延ばしにされていった。
その後家督を継いだ信長様は、実の兄弟に命を狙われるお家騒動に巻き込まれ、濃姫様の方も、実の兄が謀反を起こし、父の命を奪うお家騒動が勃発。
濃姫様の父上を親父殿と呼び、実の父の様に慕っていた信長様はこれに激怒し挙兵して、濃姫様の兄を討ち滅ぼした。
実の父に加え、兄をも失った濃姫様は心を病み、出家の道を選んだと言う。