第48章 信長の許嫁
「こんな所で立ち話もなんですから、どうぞこちらへ」
月華院様は私たちを母屋の方へと誘ってくれた。
「俺はいい。親父殿に挨拶もできたし、ここは尼寺だからな、男子禁制であろう」
「えっ、そうなんですか?じゃあ私も....」
知らなかった。男子禁制なんだ。
じゃあ一緒に戻ろうと思ったのに、
「アヤ、貴様はここで茶でも馳走になれ。城に来ても戦の話でつまらんだろうからな」
そう言って私の頬を軽く撫でると、「後で迎えに来る」と言って信長様は行ってしまった。
結局、お城のみんなの事も気になってるんだ。急いで戻った信長様の優しさと後ろ姿に愛おしさがこみ上げた。
「アヤ、では、私たちも参りましょうか」
「あっ、はい。よろしくお願いします」
「ふふっ、そう緊張しなくても大丈夫よ」
私の背中を軽く押しながら、月華院様と私は尼寺の方へと歩き始めた。
「あっ、折角だし、ちょっと手伝ってもらおうかしら」
「?」
「ふふっ、ただ話をするだけではつまらないから、体を動かしながらお話しをしましょう」
月華院様は、何かを閃いた様に、歩く向きを変えた。
・・・・・・・・
「わぁー凄い」
一度寺に戻り籠を手にした私たちは、林の中へと入って大きな栗の木の前へと来た。
「立派な栗の木でしょ?」
大きな栗の木の下には、イガグリが所狭しと落ちている。
「こんな時期に栗って、もっと早い時期のものだと思ってました」
今はもう12月、栗は確か秋の最初のイメージだったけど.......
「そうなの。他の栗の木はとっくに冬支度に入ったのに、この栗の木だけはなぜか毎年この時期に実をつけるの。ふふっ不思議でしょ?」
少女の様に可愛らしく微笑むと、籠を土の上に置いて屈み、月華院様は栗を拾ってその籠に入れ出した。
「あっ、私も手伝います」
私も月華院様の近くで屈んで栗を籠に入れ始めた。