第48章 信長の許嫁
「......信長様?」
背後から女の人の声。
二人同時に振り向くと、
「まぁ、やはり信長様」
手に花束を持った、御高祖頭巾(おこそずきん)に法衣姿の女性が立っていた。
「お濃(のう)か、久しいな」
カラッとした笑顔を作り、信長様が声を掛ける。
「懐かしい名で呼んで下さいますな。今は出家して、月華院と名乗っております。ご存知でしょう?」
あ、........月華院って、この方だ。
そうか、名前に違和感を感じたのは法名を名乗られてたから......
でも.......お濃....信長様は自然に彼女をこう呼んだ。
「父のお墓を参ってくださったのですか?」
「ああ」
「父も喜んでいることでございましょう」
月華院様は、抱えた花束をお墓に供えて屈むと、ゆっくりと手を合わせた。
数珠が巻きつけられた、細くて長い綺麗な指。閉じた目に生える長い睫毛。白い肌に綺麗な赤い唇。
尼僧の姿をしていても、これだけで、彼女がとても綺麗な女性であることが分かった。
(まだお若いのに、なぜ出家なんか.....)
色々と考えながら、その所作の美しさに見惚れていると、手を合わせ終え、立ち上がった月華院様と目が合った。
「あっ、」
正面から見た彼女もまた美しくて、思わず声を漏らした。
「あなたはもしかして...」
「あのっ、アヤです。初めまして」
「そう、アヤ。噂は色々聞いておりましたが、お会いできて嬉しいわ。私はこの寺の尼僧、月華院です。遠路はるばるよく来てくれましたね」
静かに微笑む月華院様。
この時代に来てと言うよりは、人生で、出家をした女性も、尼僧に会う事もなかったから初めての経験だけれども、月華院様は、とても落ち着いた大人の女性だと思った。