第47章 岐阜へ
(許嫁がいたの?)
.........そりゃそうだ。
何で今まで考えなかったのか、自分でも不思議だ。でも、信長様もそんな事一言も言わなかったし。
「ちゃんと聞いてる?元許嫁だった方よ。今は違うわ」
時が止まったみたいになった私にお市が声を掛ける。
「うっ、うん。でも、何で過去の事になってるの?今は?」
焦った様に質問する私にお市がストップをかけた。
「アヤ待って、気持ちは分かるけど、私が言えるのは、月華院様が兄様の元許嫁だったって事まで。岐阜までの道のりは長いわ。後のことは兄様に直接話してもらった方がいいと思う」
「........そうだね。そうする」
本当は、今すぐにでもお市から全てを聞きたかったけど、旅の目的は、お互いの知らないことを分かり合い、理解を深め会う事にある。だからこれ以上は聞かないでおいた。
「アヤ、行くぞ」
私を呼ぶ信長様の声が聞こえた。
「私行くね。お市、ありがとう」
「ふふっ、また遊びに来て。その時はこの子も産まれてるかな」
「そうだね。お祝いにまた来るね」
そっとお市のお腹に手を置いて、またね。とお腹に伝えた。
「月華院様に会ったら、宜しく伝えて。市は、二児の母になって元気ですって」
「うん。分かった。必ず伝えるね」
信長様の許嫁だったって事は、きっとお市にとっては姉のような存在だったに違いない。月華院様の話をするお市の顔は、何となく甘えた子供のような表情になったから。
お市を子供の様な表情にさせる大人な女性。
まだ何も知らない私が、月華院様に勝手に抱いた最初の印象だった。