第46章 二人の時間
私の肩の傷に躊躇いながら触れた、信長様の姿が思い浮かんだ。
あんなに強い人が見せた後悔の色。それは周りをも巻き込んでいたんだ。
「今日の兄様は、もうあの日の兄様ではないわ。アヤが側にいるからよ。だから、アヤはそのままで、側にいるだけで、兄様の支えになってるのよ。もっと、自信を持って」
お市の言葉は優しく心に染み渡っていく。
「ありがとう」
ご正室の方のことは、お市の言うとおり、私はこの失礼な考え方を改めなければと思った。
かと言って、私が正室になれるともやっぱり思えない。
信長様の側にずっといるにはどうすればいいのか。まだ答えは分からないけど
「お市と話せてよかった。ありがとう」
信長様を好きな気持ちだけは、誰にも負けない。
例え、正室になった人が信長様を好きになったとしても..........
「貴様、湯に入ったのか?」
着替えを済ませて、お市に連れられて行った部屋の中で、不機嫌そうな信長様。
「あ、はい。でも、髪がもう少し乾けば出られます」
そういえば、今日は宿に泊まるって言ってたっけ。
「兄様、私が誘ったんです。今夜はここに泊まると思ってましたし、人払いならしてありますので」
きゃあ!お市なんて事を!
お市の言葉で、私の顔は一瞬で熱くなった。
「そうだな。湯浴み後に外に出ては風邪をひく。人払いもしたのであれば、市の申し出を受けんわけにはいかんな」
真っ赤になった私の顔を見て口の端を上げながら、信長様は私の手を引っ張って抱き寄せた。
「わぁ、信長様、人前、お市の前ですっ...」
ジタバタする私を更に強く抱きしめる信長様。
「ふふっ、では邪魔者は消えますね。お休みなさいませ」
そそくさと、お市は部屋から出て行ってしまった。