第46章 二人の時間
お湯に浸かり、お互いお風呂の縁にもたれた。
「お腹、触ってもいい?」
「もちろんよ」
プクっと綺麗に膨らんだお腹に手を置いた。
「すごいね。この中に赤ちゃんがいるなんて」
「ふふっ、まだ僅かだけど動くのよ。初めての子じゃないのに、やっぱり感動するわ」
大切そうに、目を細めながらお市はお腹をゆっくりとさする。
「二人のお母さんになるんだね」
「ふふっ、アヤだってそのうちなるでしょ?」
「ええっ!私はならないし、なれないよ」
「どうして?あんなに兄様に愛されてて、まだって方が私には不思議だけど」
「それは.........」
「あっ、もしかしてできにくい体質で悩んでる?」
私が返答に困っているのを、お市は別の意味にとった。
「あっ、違うよ。そうじゃなくて....その、資格がないって言うか」
「資格?何の?」
「ほら、私武家の娘じゃないし、大きな後ろ盾もないし、だから、信長様の子供はご正室の方が産むべきだと思って」
「.........それで?」
「えっ?」
「兄様とその正室の間に子供が生まれて、アヤはどうするの?」
お市の声色が変わった。
「あの、針子部屋に移り住んで、そのままお側にいたいなって」
「ふーん。大した自信ね。正室は、子を産む道具だとでも思ってるわけ?」
え?
「自分は兄様に愛されたまま、子供や政治的なことは正室がやれば良いって、そういうことでしょう?」
不快感を顕にするお市。
「違う、お市、違うよ」
「何が違うの?私達正室は、家の為に愛のない結婚をして子供を産んでって、アヤはそういう存在だって言っているように聞こえるわ。バカにしないで」
あ..........
「違う、ごめんなさい。でも、違うの」
私は、本当にバカだ
「ごめんなさい。でも、私、怖くて....」
いつも自分勝手で、
「信長様の側にずっといていいのか不安で」
本当にバカだ。
正室になられる方の気持ちなんて、少しも考えてなかった。お世継ぎを産んで、妻としても信長様の一番になれる、そのまだ見ぬ人に勝手に嫉妬して羨んで....