第45章 心の再会
殻ごと口に入れられた蟹を一度取り出し(汚い?)箸でその身をほぐして食べる。
大好きな蟹の身はやっぱり甘くて美味しい。
でも本当は、さっきの信長様との口づけの方が数段甘くて、一瞬、みんなの前という事を忘れてしまったくらいに蕩けそうになった。
信長様の元に戻って三日。
でも、私たちはまだ一度も夜を共にしていないし、重要なことはまだ何も話せていない。
あんなにも、毎日飽きることなく口づけをし、求め合ってきたのが嘘の様に、この三日間で触れ合ったのは、木に落ちて抱きとめてくれた時のキスと、さっきのキスの二回だけ。
夜も、私が眠った後に戻ってきて、一緒の布団で眠っているみたいだけど、朝起きる頃にはもういなくて、広間で、朝食の時に漸く顔を見ることができる感じだ。
こうなると、嫌な事しか思い浮かばなくなるというもので、この一年の間に他に好きな人ができたのだろうかとか、正室の方が決まったのではないだろうかとか、太って戻ってきて、口づけよりもカニカニと叫ぶ女になってしまったと、がっかりされて嫌われてしまったんではないだろうかとか、本当は、戻ってきてほしくなかったんではないかとか、ぐるぐると心の中は黒い気持ちが渦巻いてしまう。
隣に座っているのに、離れていた頃よりも信長様を遠くに感じる。
折角の蟹も、こんなんじゃ美味しさ半減で、どんどん味がしなくなっていく。
(手を、繋ぎたいな)
触れていないと不安で、信長様の手をそっと握って、指を絡めた。
すると、いつも通り握り返してくれる。
「のぶっ.....」
嬉しくて、名前を呼ぼうとすると、それよりも早く、信長様は握った手を一瞬で離して立ち上がった。
「家康!」
「はっ!」
「先ほどの報告、今から聞く。天主に来い」
「今からですか?ですが今はアヤの」
チラッと家康の目が私を見たけど、私の心の中を悟られない様に、私は慌てて眼をそらした。
「かまわん。アヤ、そのまま貴様は食事を続けよ」
そう言って、信長様はさっさと家康を連れて広間を出てしまった。