第44章 自分の未来へ
「あっ、そうなんですね。何だか見たことがあるような気がして....」
「あぁ、それはですね、この時代の人々は、和裁の知識しかなかったはずなのに、この浴衣は洋裁の方法で縫われていてとても興味深い浴衣なんです。南蛮人とも交流の深かった信長が南蛮人に作らせたものなんじゃないかって言われてるから、作りが現代っぽいんですよね」
...........違う、その時はまだ、ちゃんとした和裁の知識がなくて......
「隣の女性用の着物は、襟周りに血が付いていて、戦に巻き込まれて亡くなった女性の物ではないかとされているんです」
...........それも...........違う
『この様に、貴様を抱きしめん限り、そのような場所に血は付かん』
それは、私の血じゃなくて........
「あの、説明ありがとうございました。ゆっくり見ますね」
学芸員の方にお礼を言って私は館の外へと足を向けた。
急ぐ様に早足で歩き、出口に近づいたところで足を止めた。
「っ...ふっ」
泣きそうになる自分の口を手で塞ぐ。
バラバラだったピースがどんどんはまっていくような感覚だ。
優しく触れる手の温もりも、甘く囁く声も、呼吸を奪われるほどの蕩けるような口づけも、どうして、忘れてたんだろう。
「っ、信長様」
全部、思い出した。
私はあの日、突然現れたワームホールに飲み込まれて、
あんなに大好きで大好きで、離れないと誓った人と離れ、記憶を失って一年も経ってしまった。
でも、ここは安土でも、私達が一緒に過ごした安土じゃない。
佐助君もいないのに、どうやって戻ればいいのかも分からない。
それに、集合時間の30分がもう直ぐ来てしまう。
なんの考えも浮かばないまま、記憶のピースだけがどんどんはまっていく中、重い足を引きずるように私は再び歩き出した。
館の外に出ると、さっきまでの晴天とは打って変わって、雨が激しく降っている。そして、季節外れの雷の音。
.......................来る。
.............. ワームホールが現れる。
直感だった。