第44章 自分の未来へ
慰安旅行一日目は滋賀県
多数存在する滋賀県の宿場町の一つに今日泊まる宿はあった。
「夕飯までは各自自由行動です。小広間に7:00に戻って来て下さい」
幹事の中井さんがそれぞれのルームキーを渡しながら、連絡事項を伝える。
「今日蟹だと思ってたのに残念」
少し足取りの怪しい有希ちゃんが残念そうに呟いた。
「明日行く福井県の宿で食べるみたいよ。今夜は近江牛だって。それも楽しみだね」
部屋に着き、鍵を差し込みドアを開ける。
「ほら有希ちゃん、部屋に着いたよ」
温泉旅館らしい、畳の部屋とい草の懐かしい匂い。
「わぁーい。もう布団敷いてある〜」
ボスっと、有希ちゃんは布団の上になだれ込むように寝転がった。
「ちょっと飲み過ぎた〜寝る〜」
もう限界だったのか、有希ちゃんからすぐに寝息が聞こえてきた。
「食事の前に起こすね。ちょっと温泉に入ってくる」
もう返事はなかったけど、とりあえず声を掛けて部屋を出た。
・・・・・・・・・
「ふぅ〜」
早い時間の温泉はまだ誰も入っておらず貸切状態。
体を洗って湯に浸かるとちょっと熱くて、熱めのお湯に長湯は無理と諦めて、露天へと出た。
「はぁ〜気持ちいい」
露天風呂を独り占めしながら、まだ明るい空を見上げる。
「温泉、久しぶりだなぁ」
専門学校の時の旅行以来かな。
目を閉じて、石段に背を預ける。
『 様、もう、ふやけちゃいます』
『そんな蕩けそうな顔をするな。手加減できなくなる』
...........あぁ、まただ.......
あの甘い声。
『貴様の体は素直だなアヤ』
『っ、いじわる』
今朝から、イヤにこの甘い囁きが耳を掠める。
『アヤ、愛している。貴様が無事で良かった』
聞いたことのない声。でも、愛おしいと体が震えるのは何故だろう。
「.....っ、涙?」
気づくと涙が頬を伝う。
『そんなに泣くな、貴様に泣かれるのは堪える』
そう言って誰か、抱きしめてくれなかっただろうか。
旅先だと言う心の開放感が私を感傷的にさせるのか、だけど、吐息が触れそうなほどの感覚をどう説明すればいいのか。
なぜこんなにも、知らない誰かに恋焦がれるのか、胸が苦しいのか。
もやもやと、霧がかかった様な気持ちのまま、私は次の日を迎えた。