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恋に落ちて 〜織田信長〜

第44章 自分の未来へ



そして、この春から気分を一新して、新たなアパレルメーカーへとデザイナーとして再就職した。

以前内定していた会社に比べれば小さな会社ではあるが、その分最初から大きな仕事にも携わる事が出来て、やり甲斐はあった。


そしてそこからまた半年が経ち、今日はデザイン部のみんなとの二泊三日の慰安旅行に福井県へ行く事になった。


この会社の人達は、事件のことを知ってはいても、その当事者が私だとは知らない。マスコミが騒ぎ立てた割にプライバシーには配慮されていて、殆どの個人情報が漏れなかったからだ。

だから、これから慰安旅行で行く福井県の海岸で私が保護された事はもちろん誰も知らない。

ただ母は、私がそこに行って辛い思いをするのではないかとの懸念を抱いているため、大丈夫かと聞いてきたのだ。



「心配しないで、お母さん。蟹だよ。しかもこの時期しか食べられない貴重な蟹が食べられるんだよ。行くしかないでしょ!」


母はまだ何か言いたそうだったが笑顔を作った。


「そうね。お母さん、心配しすぎよね」

「うん。お土産買ってくるね」

私も、精一杯の笑顔を作った。


「駅まで送ってくわね。何時?」

「あっ、いいよ。その前に病院行くから」

「今から?例の薬?」

「うん。今回からまとまって貰えるみたいだから、暫くは行かなくて済みそうなんだけど、旅行中できれちゃうから」

「そう。じゃあご飯できてるから、準備ができたらいらっしゃい」

「ありがとう」


母が部屋から出てドアが閉まり、私はため息をつく。

昨夜用意した荷物を再び確認しながら、この一年の事を思い浮かべた。


何故、銃で撃たれていたのかも、着物を着ていたのかも、縁もゆかりもない福井県にいたのかも、全く思い出せない。

ただ、家族や周りが思うような悲しい事件に巻き込まれただけとは思えなかった。

時折ふと誰かに名前を呼ばれ抱きしめられるような感覚が体に走る。
それは何とも言えず、甘く切ない感覚で、今朝見た夢の時にも同じ感覚を覚えていた。

本当は、幸せ....だったんではないだろうか。

そんな事あるはずはないのに、時々そう考えてしまう自分がいた。



「さてと」

答えが出ない考えを一旦やめ、バッグとコートを手に持ち、部屋を出た。


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