第43章 大切なもの
その全身からは、怖いほどの殺気が漂っている。
「違うんです。信長様っ、私....」
何もなかったと言いたい。手を縛られて閉じ込められてた位ならいくらでも言えたのに。
「私、元就とは.....」
目に涙が溜まり、私はそれ以上の言葉を探せずに信長様を見つめた。
「アヤ」
信長様はふわりと私の頬に手を当て泪を拭った。
「貴様を愛している。だから、笑え」
優しく微笑むと、優しく触れるだけの口づけをくれた。
「っ、うっー」
この人の愛情は一体どれだけ深いんだろう。
いつも、いつも与えられてばかりの私に、一体何が返せると言うのか。
「元就とケリをつける。貴様はここを動くな」
私から腕を離し、信長様は元就の方へと向き直った。
「たまんねぇな。ぞくぞくするぜ」
元就は舌舐めずりしながらその体を起こす。
キンっと二人の刃が火花を散らせながら再び交わった。
怖いけど、目が離せない。
両者一歩も譲らず刀を交合わせては、睨み合い、押し合い、バッと素早く後ろへと下り体勢を立て直す。
一瞬でも気を抜いた方が負ける。
そんな気がした。
その時、ポツポツと雨が降り出した。
「さっきまで、晴れてたのに」
明るかった空が次第に雲に覆われていく。
だけど、信長様と元就はそんなことに気づかないのか真剣勝負が続く。
ギュッと手を握って信長様の無事を祈っていると、
「アヤさん、そろそろ行こう」
佐助君がここから離れようと私の腕に手をかけた。
「ごめん、佐助君。信長様が戦ってるのに一人だけ逃げるなんて出来ない。佐助君には助けてもらって感謝してる。でも、佐助君だけでも先に逃げて」
「違うんだアヤさん、もうすぐ.....」
何かを焦ったように話そうとする佐助君の頭越しに、キラッと何か光るものが見えた。
何?