第43章 大切なもの
先を急ぎ走っていくと、
「あっ.......」
会いたくて、会いたくて、愛おしくてたまらない人の姿。
「僕はここで、織田軍に加勢するよ」
トンっと私の背中を優しく押して佐助君が笑った。
「信長様っ!」
信長様は、毛利元就と刃を交え、戦ってる真っ最中。
「アヤっ!」
私の声に気づいた信長様は、瞬時に元就を強く刀で押し返して、間合いを広げた。
早く信長様に触れたくて、必死で走った。
「信長様っ、って、わっ、わっ、わっ」
でも、ここは船の上。デッキの上は常に海水があちらこちらに大小様々な水溜りを作り出していて、信長様に視線を向け、まったく下なんて見ていなかった私は「きゃー」と言いながら、見事にその小さな水たまりに足を滑らせた。
ぐいっと大きな手が私の腕を引っ張って、転ぶのを食い止めてくれる。
「あっ、信長様.....」
「貴様は、どんな時も手がかかる」
ふっと優しく微笑んで、腕の中に捕らえられたその時、
ガキィッーンと耳のすぐ横で痛いほどの金属音が響いた。
見ると、信長様は、私を片手で抱き寄せ、もう片方の手で元就の攻撃を受け止めていた。
「てめぇ、信長、戦いの最中に女にうつつを抜かすとはいい度胸じゃねぇか」
「ふんっ、貴様の太刀など片手で十分」
二人は刀を押し合いながら睨み合う。両手で刀を押す元就に対して、私を守りながらの信長様は片手での応戦。
じわじわと、刀の刃が信長様に近づいていく。
瞬間、元就の目が私をちらりと見た。
「アヤは甘かったぜ。上も下も全部」
信長様の前で、信じられない言葉を吐いた。
「くっ、貴様っ!」
次の瞬間、信長様は元就のお腹に思いっきり蹴りを入れた。
「ぐぁっ!」
「信長様っ!」
元就の言った言葉は違うけど違わない。でもそれをなんて説明すればいいのか分からない。
「ゲホッ、ゴホッ、はんっ、お前もそんな顔できるんじゃねぇか」
みぞおちを蹴られ、倒れながら咽せる元就の顔は挑戦的で楽しそうだ。
「黙れ、アヤは俺のものだ、勝手に触れた貴様の罪は万死に値する」
刀の切っ尖は元就に向けたまま、信長様の私を抱きしめる片腕がさっきよりも強くなった。