第43章 大切なもの
「それにね、君を助ける様に俺に頼んだのは、他でもない幸村なんだ」
「えっ?」
「幸村は、君を人質に信玄様の故郷に近い場所に信長をおびき出して戦をするんだと思って、その方法も気に入らなかったけど、信玄様を思うあまりそれを受け入れて君を罠にはめたんだ。だけど、君を毛利に渡す事は聞いてなかったから、三ツ者の動向を聞いて愕然としたらしい」
優しく笑う、幸の顔を思い出した。
戦は、あんなに優しい人にさえも、時に残酷な判断をさせてしまう。
「こんな酷い事をされて、幸村を許せないと思うけど、幸村はこの事に激怒して、信玄様を殴ったんだ」
「えっ?」
「信玄様には信玄様の事情があって、事を急くあまり、手段を選べなかったみたいだけど、幸村はそれは武士道に反すると言って、アヤさんにした事だけは許せないと、今すぐ信長の元へ戻してやれって、強く物申したんだ」
敵同士ならともかく、この時代、主君に手をあげる事がどれほどの事かをよく知ってる。
「そんな事をして、幸は大丈夫なの?」
「くすっ、やっぱりアヤさんは優しいね。もう幸村の心配するなんて。安心して、幸村のパンチが効いたのか、信玄様も考えを変えて、真正面から信長に戦いを挑む事にしたって。」
「そう。戦は避けられないのは悲しいけど、幸が何のお咎めもなくすんだのなら、それは良かった。幸に、助ける様に佐助君に頼んでくれありがとうって伝えてくれる?」
幸を、嫌いにならなくてすんで良かった。
殴れるほどの関係を主君と築けている幸村と言う人は、やはり温かい人なんだと思う。
「分かった。伝えておくよ」
「佐助君、私もう信長様の元に行かないと、早くこの戦いを止めないと」
一通りの話が終わり、私は先を急ごうと佐助君に促した。
「アヤさん、実はもう一つ話しておきたい事があるんだ」
佐助君は、まだ何かを話そうとしたけど、
「ごめんね佐助君。先に信長様に私は無事だって事を知らせたいの」
私はその言葉を遮って、部屋を出た。
この時、話を聞いていれば、と後に何度も思うほど、私はこの時、佐助君の話を聞かなかった事を嫌ってほど後悔する事になる。