第41章 思惑 〜元就編〜
信長の寵姫、アヤ。
その女を探すのに、さほど苦労はなかった。
城下を歩く民衆の中、一人だけ出来の違う女がすぐに目に入った。
簡素に着飾ってはいるが、貿易も営む元就には、女の身につけているものが、上質なものである事が一目でわかる。
白い肌に、手入れの行き届いた濃い茶色の髪。
形の良い柔らかそうな唇は、道行く人々に挨拶をしながら笑みを作っている。
だが意外だった。
信長が選ぶ女は、自分と同じで凹凸のはっきりした色気の香る美人だと思っていた為、一瞬違うのだろうかと思ったが、アヤに付けられた護衛とその人数を把握し、アヤこそが、信長の寵姫なのだと確信した。
沢山の反物と荷物を抱え、城下の道をアヤは歩いていた。
お姫さんのくせに、なんであんなに荷物持って歩いてんだ?
最初に思ったのはそんな事だった。
路地裏から見ていると、アヤの持つ反物が一反、その腕から転がり落ち、路地裏に隠れていた元就の元まで転がってきた。
「あっ、反物がっ......」
声を発した。
自分の知ってる、甲高い声のお姫さん達と違って、良く通る透き通った声。
足元に転がり着いた反物を拾い上げ、アヤに手渡す。
「あっ、すみません」
慌てて反物を追いかけて来たアヤが俺の顔を見た。
顔がとか、声がとか、身につけているものがとかではなく、アヤ自体を綺麗だと思った。
「お前のか?」
落としたところを見ていて知ってはいたが、落とした反物を手に聞いてみた。
「はい。包から落としてしまって。拾って頂いてありがとうございます」
笑顔で受け取ろうと手を伸ばすアヤがあまりに隙だらけで、意地悪をしてやりたくなった。
ヒョイっと反物を上に上げれば、アヤは反物を取り損ねてバランスを崩し、元就の胸に顔を埋めるように倒れて来た。
「わっ!」
瞬間、ふわっと甘い香りが元就の鼻をかすめた。
「おいおい、随分積極的なお姫さんだな」
思った通りの反応に苦笑してしまう。
「ごっ、ごめんなさいって、え?」
しまった!
アヤの甘い匂いに酔って、ついついアヤをお姫さんと言ってしまい、アヤの顔が瞬時に不審なものへと変わった。