第40章 思惑
「だが、武田の領地は既に織田の領地となっておる。奴は今までどこに潜伏しておったのだ」
「それについては某から、気になる情報を入手しました」
光秀が口を開いた。
光秀が越後方面に放った斥候の話によると、これもまた死んだとされていた上杉謙信が生きていて、武田信玄はこの上杉謙信の居城、春日山城に身を寄せていると言う。
「甲斐の虎に越後の龍か。思わぬ大物が出て来おったわ」
奴らなら、アヤを攫った理由は聞くまでも無い。
「ちょっと待ってください。じゃあアヤは、武田の手の者に攫われたって事になりますよね。でも、変じゃ無いですか?アヤが攫われた遊女屋は、武田ではなく、毛利の息のかかった者が根城としていたはず」
家康が納得のいかない様子で口を開いた。
確かにそうだ。
ここ最近起こっている、小国同士の諍いは、入念に調べた結果、毛利元就が裏で色々と手を回している事が分かっている。
「武田と毛利が手を組んだって事か?」
政宗も考えるように疑問を口にした。
「でも、何のために?」
家康が再度疑問を口にした。
確かに、毛利の領地と、武田信玄が身を寄せている上杉の領地は、織田の領地を東西で挟む様な形となってはいるが、それは地図上でのこと。双方が同時に攻め込んで何とかなるほど、織田の領土は狭くはない。
だが、ここ最近の小国の小競り合いを誘発していたのは毛利で間違いはなく、確信があったからこそ、信長自身が毛利の手の者が根城としていたとされる遊女屋へと出入りをしたり、遊女達を宴に呼びつけて、情報を集めていたのだ。
そう、アヤに疑いを持たれても...........
アヤが疑いを.........
「...................アヤだ」
信長が、誰を見るでもなく家康の疑問に答えた。