第40章 思惑
信長が広間に入ると、既に武将達は皆集まっていた。
何も言わずとも、皆の目はアヤを攫われた怒りと、戦いに繰り出す闘志でギラついている。
だがそれ以上に、上座へと歩く信長から放たれる怒りのオーラに皆の肌がピリピリと粟立った。
信長は、上座に着くと腰を下ろし、アヤに出会う前の様な冷酷な表情で皆を見据えた。
アヤのいなくなった安土城は、季節で例えるなら春から冬へ。
色で例えるなら白から黒へ。
一日で例えるなら、太陽輝く昼間から、泣く子も黙る闇夜へと変わるが如くで、城中の誰もが、アヤのいなかった日々には戻れない事をたった数刻で痛感させられるのだ。
「先ずは秀吉、影からの情報を伝えよ」
「はっ」
影からの報告によると、アヤは予定通り仕立てた着物を呉服屋へと届けた後、何故か城とは逆方向に歩き出した。
アヤの表情が少し緊迫していたことから、呉服屋を怪しく思った影は素早くその呉服屋の中へと忍び込み、信じられない人物を目撃した。
「甲斐の虎が、生きていただと?」
「はっ、影は、先の武田との戦にも参加しており、その目で信玄を見ておりますので、見間違いは無いとのこと。しかも、アヤが友の様に信頼していた男はその信玄の片腕、真田幸村である事も分かりました」
「三ツ者の店であっと言うことか。情報戦を得意とする奴のやりそうな事だな」
奇しくも、俺がアヤへの想いに気づいたのも、この呉服屋の男と親しく話すアヤにイラついたからだった。
アヤが俺の女だと知って近づいたのか。
アヤを取り込み信頼を得るのはいとも簡単であったろう。
奴は疑う事を知らぬからな。