第40章 思惑
「ぐぁっ」
やっと外に出た私が見たのは、斬り付けられ倒れて行く護衛の人。
「!」
やめて!
殺さないで!
その人達は殺さないで!
その人達は関係ないの。私を守ってくれてるだけなの、だから逃がしてあげて!
逃げて!
みんな逃げて!
「ふーっ、うー、うー!」
声に出したくても猿ぐつわを噛まされて声にならない。
「あっ、あの女いつの間に外に」
黒子の様に顔を隠した男たちの一人が、刀の血を無造作に振り落としながら、私の方へゆっくりと歩いてくる。
「おい、その女は傷つけるなよ。大事な人質だ」
「分かってるよ」
布で隠れていて顔は見えないけど、残忍な笑みを浮かべている様な気がして、恐怖で体が竦んでもう動けなかった。
キラリと、刀の切っ先が私の目の前で光った。
「!」
ビュンと風を切る音と共に、
男はその刀を私にめがけて大きく振り下ろした。
信長様!
「..............アヤ?」
安土城の天主で書簡に目を通していた信長は、ふと手を止めた。
アヤの声が聞こえた様な気がして、襖の方に目をやるが、そこにアヤの姿はない。
「ふっ、あやつの声が聞こえたと思うなど、もはや重症だな」
昨夜も散々アヤをこの手に抱いたのに、キリがないな。
夕刻まではまだしばらくはある。
また夕餉を天主に運ばせたら、奴は顔を真っ赤にして困った様に怒るのであろうな。
「さて、今宵はあのじゃじゃ馬をどうしてくれよう」
くくっと笑いながら、信長は書簡へとまた意識を戻した。