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恋に落ちて 〜織田信長〜

第39章 幸と信玄



幸が店の奥へと行くと、長身で体格のいい男が壁にもたれながら幸に話しかけた。

「幸〜、お前らしくないな、動揺なんかして」

幸はその男に振り返り、厳しい視線をぶつけた。

「っ、らしくないって、俺は最初から反対したはずだ。こんなやり方間違ってる」


「そう怒るなよ。それともあの子に特別な思い入れでもあるのか?」


「ばっ、そんなんじゃねえ。ただ関係ないやつを巻き込むのが嫌なだけだ」


「あの信長の女だ。関係は大ありだ」


「まだ、そうだと決まったわけじゃねぇ」

ふいっと、その長身の男から顔を背けて幸がそっぽを向くと、男は幸へと歩み寄り、両肩を強く掴んで睨み見た。

「幸、お前が一番分かってるだろう?」


「っ......」


「悪いな、幸。俺だって、あんな可愛い子だとは思わなかったが.......信長の女となれば容赦はしない。頼むよ、お前の一押しが必要なんだ」

睨んでいたかと思えば今度は人懐っこい笑みで幸を諭すように見た。


「っ、..........分かってるよ」

ふぅーと幸は大きなため息を吐き出し、スゥーっと、大きく息を吸い込んだ。


「やりゃあいいんだろ」

吐き捨てるように幸は壁にもたれた人物に言い、パンパンと気合いを入れるように自分の顔を両手で叩いた。

(わりぃな、アヤ)


壁にもたれた人物は、店に戻って行く幸の後ろ姿を見てニヤリと笑った。







「わりい、待たせたな」

お店の中の着物や反物を見ていると、幸が何本かの反物を手に持って戻ってきた。

「今風呂敷に包むから待ってろよ」


腰を下ろすと、仕立てた着物を入れてきた風呂敷に、幸が反物を入れて包んでくれる。


「ほらよ。急ぎじゃねぇみてぇだぞ」


「ありがとう。でも可愛い反物だから早く仕上げちゃうかも、ふふっ」



アヤは渡した反物を嬉しそうにぎゅっと抱きしめた。


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