第38章 当たり前の日々
「実は私も、もしかしたら赤ちゃんが、と思わなかったわけではありません」
この時代、避妊という認識は多分ない。
信長様以外の人を知らないから詳しくは分からないけど、結婚前の性交渉で子供が出来れば結婚という流れがほとんどだと、以前針子部屋で針子達が話していた。
無理やり抱かれた初めての夜から、信長様は当たり前に中に出してきたから、当初は生理が来なくて妊娠したかもと焦った時期もあった。
でも安土に来て、心身共に色々とダメージを受けたから、生理は止まってしまったんだと思うまでに、時間はかからなかった。
専門学校に通っている時も、コンクールや課題の提出が近くなると、徹夜したりご飯を食べ損ねたりして、すぐに生理不順になった。
一度心配で婦人科に診てもらった時、医師から伝えられたのは、「人間の体は常に生きる事を最重要事項に掲げる」のだそうだ。
生理は、個人差はあれど、毎月約一週間たくさんの血を体から出す。
これはやはり体に負担をかけている。だから、身体のバランスを崩すと、身体の安全を優先して生理は止まってしまうらしい。
出産し、授乳をするお母さん達も暫くは生理が来ない人が多いらしい。これも、赤ちゃんにたくさんの母乳をあげることにより、これ以上体に負担をかけないように脳が生理を無意識にストップするからだとか。
個人差があるため必ずしも全ての人に当てはまるわけではないが、私の場合はちょっとの事でも生理不順になりやすい体質だと言われた。
安土に来て、体重を計ったわけではないけど、自分でも痩せたと思う。
だから、今は人体優先期間なのだと思っていたし、子どもは、ご正室の方がきっと産んでくれる。その為にも、私は妊娠してはいけないとも思ってるから、今の生理不順はなるべくしてなっているのかもしれない。
でも、こんな事可奈さんには言えない。
ご正室だろうが、恋仲だろうが、信長様のお子が生まれるのはやはり家臣達の望む所なはずだから。
「少し、休養と栄養を摂れば、直ぐにでも戻ると思います。いつもそうやって戻ったので。心配かけてごめんなさい」
「それを聞いて安心しました。それでは今夜からは栄養価の高いものを中心に食事をお出し致しますね」
可奈さんはホッとした顔をした。
私と信長様の事は、二人だけの事ではないのだと、この時初めて思った。