第38章 当たり前の日々
「ふぅー、朝から心臓に悪い」
ばくばく言う胸をさすりながら針子部屋へと向かうと、途中で声を掛けられた。
「あの、アヤ様」
ん?
「あっ、可奈さん」
振り向くと、女中頭の可奈さんが立っていた。
可奈さんは、20代後半で既に女中頭を任されているキャリアウーマンで、常にピンっと背筋が綺麗に伸びて、現代で言うなら有能な秘書タイプの女性だ。
「どうしたんですか?今日は、針子の仕事を先に済ませてからお城の仕事を手伝おうと思ってたんですが」
可奈さんはそうではないといった感じで、頭を静かに横に振ると、神妙な面持ちで口を開いた。
「あの、アヤ様にお聞きしなければならないことが御座いまして、今、少しお話しできますでしょうか」
「あっ、はいっ。大丈夫です」
「ここでは何ですから、どうぞこちらへ」
可奈さんはそう言うと歩き出し、近くの客間へと入って行った。
客間へ入り、座布団へ座ると、元々用意がされてあったらしく、「どうぞ」と、お茶を淹れてくれた。
「ありがとうございます」と言って湯呑みを受け取って少し口にする。
可奈さんは暫くの間を置いた後、口を開いた。
「アヤ様.....」
「はい」
「失礼を承知で申し上げますが、アヤ様はその、女性の経血がおありにならないのではございませんか?」
「はい?」
けいけつ?........生理の事?
「あの......どうしてこんな事を?」
「アヤ様、私達女中の仕事は城内のあらゆる事を管理する事です。炊事や掃除などの家事全般もそうですが、御城主である信長様やそのお相手の方の健康管理を行うのも私達の仕事なのです」
そうなんだ。全然知らなかった。
「でも、どうやって健康管理をするんですか?」
「それは、言いにくいのですが.......」
「大丈夫です。教えて下さい」
私もお手伝い出来ることが増えるかもしれないし
「そうですか。では、私達女中は、日々お召し上がりになったもの、ならなかったもの、排泄、襦袢に変な汚れがないか、あとは、敷き布を毎日確認しております。ですので、その敷き布に血が付いていれば経血が始まったと知ることができます」
そうなんだ、って、えっ、待って?敷き布の確認って、布団のシーツを毎日確認してるって事!