第37章 都合のいい女
「ここ最近、小国同士の諍いが続いておる」
「えっ?」
「小国とは言え、一つでも失えばその均衡が崩れ、織田軍にとっては痛手となる。それが続けば尚更だ」
「誰かが、意図的にそれを起こしてるって事ですか?」
「そうだ。それを探るため、色々動いておった矢先、その糸を引く人物が一軒の遊女屋を根城にしておるとの情報を掴み、その店に焦点を当てて探っておったのだ」
「でも、信長様自ら?」
「俺は元々、尾張のうつけと言われてきたからな。遊女と遊んだ所で誰も疑いはせぬ。家康や三成では役不足だし、光秀は裏社会に馴染みすぎで中々信用を得るのが難しい。秀吉は人を騙すには向いておらん。俺が一番適任だっただけだ」
ニッと話の内容には釣り合わない爽やかな笑顔を見せる。
「じゃあこの香の匂いは?」
「先日の宴も、この匂いも全て繋がっておる。犯人を突き止める事に成功したゆえ、当分こういった事は起こらんだろう」
信長様は少しだけ体を離すと、私の頬に片手を添えた。
「俺は貴様の匂いにしか興奮はせん。嫌だというなら貴様がこの匂いを消せばいい」
口づけの合図に目を閉じようと思ったけど、ふと針子仲間との会話を思い出したので、信長様の口に手をあて、聞いてみた。
「待って、私って、信長様にとって都合のいい女なんですか?」
「............は?」
「だって、今だって、都合が悪くなると信長様は私を抱いて話を逸らそうとするから」
「......貴様、俺の話を聞いておったのか?これは敵を見つけ出す為の調査で、それも終わって当分はないと言ったであろう」
「でも、嘘ついたじゃないですか。本当は三回なのに二回って」
「二回も三回も大して変わらん、早く貴様に触れさせろ」
めんどくさそうに、信長様の口をふさぐ私の手を取って引き寄せ、口づけようとした。
「ほらっ!そうやってごまか んっ」
抵抗する間も無く唇は簡単に奪われ、私の抗議の声は遮られた。
「っ、まって...んっ、のぶ」
何とか話を続けようと頭を捩るも、信長様の手が私の後頭部をがっちりと押さえつけているため、もがけばもがくほど、深く探られて息苦しくなっていく。
「っん、はぁ」
絶え間なく絡みつく舌の甘さと息苦しさが、体の力を奪っていく。