第37章 都合のいい女
結局、あの日の事を信長様に聞けないまま(仕事だと言われそうだし)何日かが過ぎ、少しずつそんなことも頭から薄れ始めていたが、針子部屋での会話がきっかけで、事態は思わぬ方向へと向かってしまう。
元々自室として使っていた部屋を針子部屋にしてもらった時は、一人でせっせと仕事を受けては黙々と作業をしていたが、秀吉さんの計らいで、隣の一室も合わせて、元々お城で針子をしていた人たちもここで作業をする事になった。
今は、会社で言えば一つの部署の様に、内部の依頼はもちろん、外部の依頼もここで全て請け負って、みんなで手分けして作業に取り組んでいる。
元々着物はこっちに来てからの独学で、細かいところまでは分かっていなかった私は、ここで新たに着物の仕組みや作り方などの、本格的な和裁を学ぶことが出来てとても楽しい。
それに、針子部屋は日々様々なゴシップネタが飛び交い、重要な情報源ともなっている。
大抵は、秀吉さんと政宗の安土ナンバー1と2のありとあらゆる話だが........
今日のネタは『浮気』
最近祝言を挙げたばかりの針子仲間の旦那様が早くも浮気をしたと言うのだ。
「ほんっと信じられない!あの人、一生離さない、幸せにするとか言ってたくせに、夫婦になった途端これですよ!」
どんっ、と作業台をゲンコツで叩いて怒りをぶつける。
「男って、そーゆうとこありますよねー。釣った魚には餌はやらないみたいな」
「夜の営みだって、だんだんと手抜きになったりねー」
今日の話題の主導者は、既婚者と恋仲のいる女たち。
旦那様や恋仲の相手の愚痴は止まらない。
「あんなに私のこと好きだって言ってたのに。」
その針子仲間は、わぁーっと、ついに泣き出してしまった。
すると、
「100から入るからですよ。」
一人の針子がポツリと言う。
「えっ?どう言う意味?」
意味深な発言に、みんなで彼女に注目する。