第36章 男のつきあい
天主に戻ると、そのまま褥にゆっくりと降ろされ、信長様も横に腰を下ろした。
「あの、私....」
「時間をくれ」
「え?」
「貴様を愛している。泣かせたくはない。だが、天下をとるまでは、俺は俺のやり方を変えるつもりはない」
分かってる。
信長様には大望がある。それを実現する為に一緒に戦う仲間、家臣を疎かにすることはあり得ない。だからこれは、私のただのわがまま。
でも.......
「.........ないで」
「なに?聞こえん」
「他の女の人に....触れさせないで」
さっき、広間で女の人が触れた所をゴシゴシと消すように信長様の着物と自分の着物をこすった。
「嫌なんです。他の女性が信長様に触れるのも、隣に座るのも、お酌をするのも......っ」
擦っても、擦っても消えない気がして、何度も何度も擦ろうとする手を信長様が止めた。
「アヤ」
そのまま私の手を握って口元へ持っていくと、
ちゅ、と手の甲にキスをした。
「...........っ、私...怒ってるんです」
「分かっておる」
手の向きを変え、今度は掌にキスをした。
「んっ.......だから、いつもこういう事して誤魔化そうとしないで下さい」
「嫌なら解けば良い」
つーっと舌を這わすように掌から手首へとキスが降りて行く。
「んっっっ..信長様はなしっ.............て」
言葉を言い終わるのが早いか否か、いつのまにか体は倒され、掴まれた手首はそのまま褥に縫い付けられた。
「貴様に嘘はつけぬ。だから伝えておく。酒と女は、人の隙をつくには最高の材料となる。だから、先程の様な宴を催すことをやめることはできぬし、必要とあらば遊女と一夜を過ごす事もあるやもしれん」
遊女と一夜って、それって他の女の人を.....
「勘違いはするな。貴様以外の女を抱く事はありえん。あくまでもフリだ」
でも....
「嫌...です........私以外の人に触れるなんて.....」
涙が溢れそうになる前に、優しい触れるだけの口づけをされた。