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恋に落ちて 〜織田信長〜

第36章 男のつきあい



「あの人の肩を持つわけじゃないけど、さっきのは信長様は悪くないと思うよ。家臣の手前もあるし、呼び寄せた女の人達の手前もあって、信長様が嫌な顔をするわけにはいかないし、それに、あわよくば、信長様のお手つきになりたいと考える者もいるからね」




分かってる、でもモヤモヤする。
前に、光秀さんの間諜の女の人が信長様の胸に口づけた時と同じ嫌な感情だ。

何で私は、信長様の事になるとこんなにみっともなく嫌な女になってしまうんだろう。

言いたい事一つちゃんと言えず、わがままな態度で困らせてる。嫌われたくないのに。


「怖いよ。本当は嫌だって言って。嫌われたらって思うと」




少し間を置いた後、家康はふぅとため息をついて


「今言ったこと全部をちゃんと言いな。あの人、喜ぶと思うよ」


「そんなわけ.....」


「アヤさ、俺は別にアヤの悩みを聞くのはいいけど、ここに連れて来たのも俺だし、でももし信長様がアヤの悩みを他の女の人にしてたらどう思うわけ?」


「あ........」

その通りだ。
何で私に直接言ってくれないのって思う。

不思議だ。何で家康はいつも私の導き出せない答えを導いてくれるんだろう。
逃げてばかりで、拗ねてばかりいる私の背中をいとも簡単に押してくれる。


「家康、私、ちゃんと伝える」


「ん、あんたらしく真っ直ぐ伝えなよ」

家康がぽんぽんっと頭を優しく撫でてくれるから、涙が出た。

素直になるのはとても難しい。
好きな気持ちや嬉しい気持ちはたくさん伝えられるのに、嫉妬や独占欲はできれば知られたくないし、見せたくない。


でも



「私、帰るね。お茶、ご馳走さまでした」

立ち上がって、ごくごくごくとお茶を飲み干し、お湯呑みを家康に渡した。


「ほんと、単純」

家康は優しく苦笑いをした。

「もう遅いから、送ってくよ」


ありがとうと言いながら、家康の御殿を出ると


「........っ」


そこには、馬に跨りこちらをじっと睨みつける様な信長様がいた。


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