第36章 男のつきあい
「アヤっ!」
追いかけて来た家康に手を掴まれた。
「離してっ!」
「何で逃げるの?」
「それは.......」
何かを言わなければと思い言いかけた時、
「アヤ!」
信長様が家康の背後から私の名前を呼んで、こっちに歩いて来た。
「っ..........」
腕は、家康に掴まれたままだけど、目は信長様の方を見て足だけが逃げようと動く。
「家康、アヤをそのまま寄越せ」
信長様の顔は、怒っていると言うよりは呆れていると言った顔で、でも私は動揺していて逃げたいばっかりで....
「やっ、やだ、家康お願い、離してっ」
家康に掴まれた手を必死に離して逃げようともがいていると、
「信長様」
私の手を掴んだまま、家康が信長様に向き直った。
「何だ」
目を合わせたくなくて、顔を伏せているけど、声だけで凄い威圧を感じる。
「アヤは気分が悪いみたいなので、今夜は俺の御殿へ連れて行きます」
「なに?」
たった一言なのに、ビリビリと空気が張り詰めた。
「行くよアヤ」
そんな空気を無視するかの様に、家康は知らん顔でくるりと私に向き直り、そのまま私の手を引っ張ってスタスタと歩き出した。
「あっ、あの家康?」
余りの一瞬の出来事に頭が追いつかない。
「いいから、このまま振り向かずに一緒に来て」
今、この瞬間に斬られてもおかしくない位の空気感の中、家康の顔はとても穏やかで優しくて、私は泣きそうになるのを堪えながら、その手の導くまま、家康の御殿へと連れて行かれた。