第36章 男のつきあい
「信長様は?」
「信長様が催してくださる宴だ。もちろんいらっしゃる。とにかくお前はだめだ。男の付き合いってもんだ」
出たその都合のいい言葉。それ言われるとなにも言えなくなるのに。
「......じゃあ、天主に戻るね」
襖の向こうが気になるけど.....
「アヤ」
トボトボ歩き出す私を政宗が呼び止めた。
「なに?」
「絶対に広間を覗くなよ」
そう言うと、ニッとイタズラな笑顔を私に向けて広間へと入っていった。
「う〜政宗のイジワル、あれ絶対わざとだ。覗くなって、何かの恩返しじゃあるまいし、覗いたって飛んで消えていなくならないもんっ!」
不貞腐れながら歩いていると、
「ぷっ、また心の声ダダ漏れだよアヤ」
(んっ?)
後ろから声がして振り返ると
「あっ、家康!」
「あんた、ほんと隠し事できないよね」
口に手をあてて笑いを堪える家康。
何でみんないつもこんなタイミングで現れるの?
「家康も宴に呼ばれて来たの?」
「そうだけど......あぁ、それで、不貞腐れてるんだ」
何かを察したように家康がふっと笑った。
「何で笑うの?こっちは落ち込んでるのに」
「いや、あんたはいつも素直に生きてるなと思って」
「家康もやっぱり、綺麗な女の人がいる宴の方が好きなの?」
「はっ?」
「だって、私が参加できないってそういう時でしょ?」
「いや俺は別に、付き合いだし」
出たっ!またそのマジックワード。
「男の人はいいよね、そうやっていつも都合のいい言葉でごまかせるからっ........て、あっ、ごめんなさい。家康にあたっても仕方ないのに」
「別にいいけど、でも、言いたいことがあるなら直接本人に言えば?」
「えっ?」
家康の顔が急に真剣になって、私の手首を掴んだ。
「家康?」
「気になるんでしょ?連れてってあげるよ」
そう言うと私の手を引っ張って、広間の方へ向かって行った。