第35章 祭りの後
「信長様」
葵と話したくて、信長様の方を見ると、
「そろそろ限界だな。行ってこい」
ぷっと、笑いながら私を馬から降ろしてくれた。
「そこの茶屋にて待て。視察が終わり次第迎えに来る」
そう言って、秀吉さんや他の視察隊の人達と街中へ消えて行った。
やっぱり信長様は優しい。大好き。
くすぐったい気持ちを噛み締めながら葵の元へと行く。
「葵、会いたかった」
葵に会うのはあの日以来で、勝手に天主に戻ってしまった事とか、信長様へ紙を届けてくれた事のお礼が言えないままでいた。
「アヤ、この度は私の父のせいで本当にごめんなさい」
深く頭を下げて謝る葵。
「やめて、葵は何も悪くないよ。葵の父上様も織田家や信長様の事を思っての事だし、私こそ、葵にお願いをしたまま天主に戻ってしまって、心配をかけてごめんなさい」
「でも....アヤを深く傷つけてしまって」
「深く...傷ついたのはほんと。でも葵の父上様に言われなくても、他の誰かにはいずれ言われた事だと思うし、これは私の覚悟の無さと自覚の無さが招いた結果だから、誰のせいでもないの」
「アヤ」
葵の頬に涙が流れる。きっと彼女も、たくさん泣いて傷ついたに違いない。私がしっかりしていれば、誰も傷つかずに済んだのに。
「葵、心配かけてごめんね。 また行儀見習いの会を明日から再開してもいいって言われたから、ご指導のほどよろしくお願いします。あと、父上様ともお話ししてあげてね。葵が話してくれないって、悲しんでるみたいよ?」
「あれ以来ほとんど口を聞いてないの。でも、そろそろ許してあげようかな。あんなんでも父だしね」
ぺろっと舌を出して葵が笑った。
「そうだよ。悲しくて、きっと泣いてるよ」
あははと笑いあうと、いつもの二人にすぐに戻れた。
私達は信長様に言われた茶屋に入り、甘味を堪能し、お茶をしながら久しぶりの女子トークを楽しんだ。