第35章 祭りの後
なんだか......視線が痛い
信長様の馬の上で、信長様に抱き抱えられるように座って城下の視察へと出た私は、城下を進むうちに、視線が気になり始めた。
「信長様」
信長様の着物を握って顔を見上げる。
「どうした」
「あの、何だか見られている気がして」
「ふっ、昨日あれだけ派手に口づけたんだ。見られて当然だ」
確かに......
昨日のは、軽く触れるだけの口づけとは違い人前ではしない濃厚なもので、周りの人たちも囃し立てるから、信長様は更に深く探るような口づけを続けて、人前なのに私は力が抜けて最後は信長様にお姫様抱っこをされ、城は大盛り上がりを見せた。
信長様はこのお城の御城主様で、さっきから通るたびに皆んなが頭を下げている。だから、見られる事が当たり前の生活だけど...私は落ち着かない。(理由が理由だけに....)
だって、人前でキスをするなんて、人生で結婚式の誓いのキスくらいだと思ってたし、あれだって軽くちゅってするくらいでしょ?(そうだよね?)女優さんじゃあるまいし、あんな.......
また思い出すと、恥ずかしくて顔が熱くなってきた。
もう、馬から降りて帰りたい。
でも、これはお仕事中で遊びじゃない。
恥ずかしくて信長様の胸に顔を埋めようとした瞬間...
「ひゃっぁ...」
急に背筋を信長様の指がなぞってピーンと背筋が伸びた。
「何するんですかっ!」
「貴様は俺の、この信長の女だ。背筋を伸ばして笑っていろ」
ニッと笑う信長様。
「は...い」
そうだよね。
私が、信長様と恋仲にある事は多分町の人たちも知っていたと思うけど、昨日のは、信長様と恋仲だと公開宣言したみたいなもので...
信長様はこんな女を選んだのかとみんなにがっかりされないようにしっかりとしなければ。
でも..............
ピーとか、ぴゅーとかの口笛の他に、「よっご両人!」とか「お幸せに」とか色んな言葉が飛んでくる。
笑顔、きっと引き攣ってる
恥ずかしさでそろそろ限界を迎えた時、
「あっ.....」
通りに見慣れた人影が。
「葵っ!」
葵もこっちを見ながら軽く頭を下げた。