第34章 悲しみの先
「秀吉、皆を中庭へ入れて暫く待たせておけ」
「はっ、承知しました」
「アヤ、これを着ていけ」
アヤの為に仕立てさせた新しい着物を肩に掛けてやる。
「これは......」
初めて見る着物にアヤの手が止まった。
「京より特別に仕入れて仕立てさせた物だ。貴様の白い肌に良く映える」
白地に薄桃色が主となり織りなす生地に、色取り取りの小花が散らされたその着物をアヤはぎゅっと抱きしめて、
「っ、ありがとう.....ございます」
と、また涙を流したが、その顔は幸せそうに微笑んでいた。
着替えを済ませ、紅をさそうとするアヤの手を止めた。
「信長様?」
「その前に寄越せ」
「えっ?んっ.......」
掴んだ手を引き寄せてアヤの唇を軽く奪って離した。
「紅をさした後では、貴様は怒るからな」
「っ、さしてなくても、突然びっくりしたので怒ります」
ぷくっと頬を膨らませて軽く俺の胸を叩くアヤ。
当たり前だった日々が漸く戻った事を実感した。