第33章 愛するという事
だが、織田の為に尽力してきたじじい供をないがしろにするつもりもない。
だがもう、奴らの願いは聞いてはやれぬ。
奴らを納得させるにはただ一つ、天下布武を成し得る事。
血筋ばかりを慮る公家供の助けなど借りずとも、この日ノ本を一つに束ねれば、晴れてアヤを正式な俺の妻として娶ることができる。
それまでは、じじい供の注意を他に引きつけ、アヤを下らん家のゴタゴタから守るつもりでいた。
だからこそ、じじい供が城に来るこの会議の間は、アヤを天主に閉じ込めて、余計な荒波に揉まれぬようにしていたんだが、あんな百戦錬磨の戦好きが着物を着て歩いているようなじじいに突然斬られそうになって罵声を浴びたとなれば、相当なショックを受けているに違いない。
今すぐにでも天主に戻り抱きしめてやりたいが、それではまたじじい供からアヤが悪く言われる原因を作る事になる。
「とりあえず会議に戻る」
秀吉はまだ何か言いたげだったが、俺は会議へと戻った。
漸く会議が終結し天主に戻ると、縁側に横たわる
アヤを見つけた。
「アヤ」
呼んでみたが返事はない。
正面に回ってみると、眠っていた。
相当泣いたのだろう。床には涙の水たまりがまだ残っており、頬には乾いた涙の跡が見てとれた。
「アヤ」
乾いた涙を拭うように、頬に指を滑らせる。
アヤを抱き上げ褥へと運ぶ。
正室というものにこだわりはない。身内ほど厄介なものはないと、俺自身が身を以て知っている。
それに、もともと争いを好まないアヤに、織田家の奥の事を背負わせようとは思っていないからだ。
「辛い思いをさせたな」
華奢な体を抱きしめる。
あんな屈強な男に斬られそうになり、どれ程怖かったか。
「許せ、アヤ」