第33章 愛するという事
「どうしますか?」
秀吉が口を開いた。
「じじいの戯れ言だ。放っておけ」
「しかし、アヤは斬られそうになった上にひどい事を言われたんですよ」
「ふんっ、じじいも耄碌したな。アヤをそこらの女中と間違うとは。
織田のじじいどもはただ言いたいだけだ。俺も家督を継ぐ時には、うつけだの、織田家は俺の代で滅びるだの散々言われた。言いたい奴には言わせておけばいい、それにアヤは、そういった処罰は望んでおらんだろう」
だからこそ、俺や秀吉に言うなとあの女に口止めをした。
「アヤの事は俺が何とかする。じじい供は貴様が大人しくさせろ」
「恐れながら、お聞きしたい事がございます」
「何だ」
「信長様は、アヤとの事をどうお考えでいられるのでしょうか」
いつも以上に熱い口調の秀吉
「貴様の心配には及ばん、アヤは生涯俺の腕の中だ」
秀吉が聞きたい答えではない事は分かっていたが、それ以上は言うつもりはない。
親父の代から織田家を支えてきたじじい供は中々に厄介だ。
アヤと出会うまで、別にじじい供がそのうち見繕って連れてきた公家の女を正室に迎えてもいいと思っていた。
一度親同士が決めた許嫁とは、既に破綻しており、これと言って好いた女がいたわけでもない。
あれこれと、俺のやる事に異論を唱える古い考えに縛られたじじい供が少しでも大人しくなるなら、お飾りの姫を城の一室に住まわしておけば済む話で簡単だと思っていた位だ。(まぁたまに手を出すとは思うが)
だが、アヤが現れた。
天下統一以外で初めて手に入れたいと思った。
一瞬で心を奪われ、触れるたびに底無し沼に囚われたように深く溺れていく。
アヤに抱くこの感情が愛ではないなら、何と呼ぶのか分からぬほどに深く、アヤを愛している