第33章 愛するという事
定例会議に来た織田のじじい達の一人が、廊下でぶつかったアヤを女中と間違えて斬ろうとした挙句、侮蔑する言葉を連発した。と、じじいの娘と名乗るこの目の前の女が必死で説明をしている。
「女、貴様の名は何と申す」
「葵と申します。あと、アヤからこれを信長様にと」
じじいの娘にしては美しい、葵と名乗る女から書を受け取る。
あの時、天主に一度戻った際に落としたのか。
アヤはこれを届けようとして、じじいに出くわしてしまったのだろうと、一連の流れが見えるようだった。
「して、アヤはどうした」
「アヤは、かなりショックを受けているようでした。一度心配で戻った時にはそこには姿がなく、天主に戻ったものと」
女の顔は青ざめて、手が震えている。
葵と言う名前は今までに何度かアヤから聞いた事がある。ここに来て初めて友達が出来たと嬉しそうに話していた。
この女がいなければ今頃アヤは斬られておった。
「貴様の用件は分かった。アヤが世話になった」
「葵、後は何とかする、お前も大変だったな」
俺の横にいた秀吉が、女を宥めながらその背中を押して行くように促した。
「失礼します」
女は軽く頭を下げると去って行った。