第32章 トラウマ
次の朝、やっぱり信長様の腕の中で目が覚めた。
また、運んでもらったらしい。
でも、自分に言い聞かせた言葉も虚しく、昨日以上に身体に力が入らない。
僅かに動いた手を、眠る信長様の頬にあてる。
「好き........」
「俺もだ」
不意に信長様が目を開いて囁き返し、頬に当てた私の手を握って、優しい触れるだけのキスをしてくれた。
「今夜は早く戻る。飯ぐらいはちゃんと食え」
私の頭を撫でながら、私を見つめるその目はとても心配そうに見えた。
目頭に込み上げるものを感じて、声にはならなかったけど、私は精一杯の笑顔を向けた。
だけど結局、布団から起き上がる事が出来ないまま夜になり、言葉通り信長様は早く戻ってきてくれた。
「貴様、昨日から何も食べておらんな。いや、一昨日からか。女中どもが心配しておったぞ」
確かに、それくらい何も食べてないかも。
でも、
「食べたく....ありません」
「そうか.....では、そろそろ何があったのかを話せ」
「何も......ありません」
「なら、話させるまでだ」
痺れを切らしたように、信長様は私の顔の横に片手をついて、もう片方の手で帯に手を掛けた。
「今言う方が、身のためだぞ」
信長様はもう一度聞いてくれたけど、
「かまいません。どうせ私は.....」
天井を見つめたまま、無気力に言い切ろうと思ったけど、言葉がそれ以上出てこなかった。
「何だアヤ、言いたい事があるなら言え!」
私の体を信長様の方に向かせて信長様が叫んだ。
「全部受け止めてやる、だから貴様の怒りを吐き出せ!その胸に溜め込んだものを全部だ」
その切なさと怒りを含んだ顔に、信長様の前では我慢していた涙が溢れた。
「っ、どうせ私は、どこでも体を開いて信長様を誘う娼婦だから、信長様も私なんか簡単だって、そう思ってるんでしょ!」
違う、こんな事が言いたいんじゃない
でも、溢れ出た涙の様にもう止められなかった。