第31章 見えない壁
「分かってますよ〜」
と独り言を呟きながら床に目を落とすと、何か折り畳まれた紙が落ちていた。
「これ、信長様が落としたのかな」
机からは遠い場所に落ちているし、襖が近いことを考えると、さっき着物に入れていた物を落としたっぽい。
絶対に出るなと言われたけど、渡したらすぐ戻るから大丈夫だよね。
会議でもしかしたら必要だといけないと思い、その紙を手に取って信長様を追いかけることにした。
天主から本丸御殿までは、階段を降りて一本の長い廊下を抜けるだけ。でも、もうそこに信長様の姿は見えなかった。
「どうしよう。広間まで行ってもいいかな」
あれだけ何度も出るなと言われた手前、これ以上進む事に少し躊躇ってしまう。けど、
「きっと大切だよね」
取りに戻るのも手間だろうし、途中で秀吉さんにでも会えたら渡してもらおうと思い、広間に向かって再度歩き出した。
「でも、何の書類なんだろう」
手に持った紙を見ながら廊下を歩いていると、
どしんっ!っと誰かにぶつかってしまった。
「ごめんなさい。よそ見をしていて、お怪我はありませんか?」
慌ててぶつかった相手を見て謝った。
大御所感たっぷりのその男性は、時代劇とかに出てきそうなほど、いかにも偉そうなお侍さんといった感じの風情で、ぶつかった私の方をジロリと睨んだ。
「女中風情が無礼な!そこへなおれ!」
相手は大声で叫ぶと、刀に手を掛けた。