第31章 見えない壁
安土城では月一回、織田家の重鎮が集った定例会議みたいなものが開かれている。
人の出入りが多くなり、城の警備も手薄となる為、会議の行われる日とその前後は、あまり天主から出ないようにと言われていて、私は余り関わったことがない。
天主から外を眺めていると、次から次へと馬に跨がり何人か家来を引き連れた人が城の中へと入って行く。
この人たちを一つに束ね、国を動かしているのが信長様なんて、本当に信じられない。
一緒にいる時の信長様は、ちょっと意地悪で俺様だけど、いや、大分俺様だけど、よく笑って優しくて、たくさん抱きしめてくれる。
出会ったばかりの頃は、信長様の放つ恐怖のオーラみたいなものにいつも恐れおののいていて、近寄るのさえも畏れ多い感じだったのに、すっかりそんなものは取り去られて、大好きな気持ちだけが残った。
「アヤ」
背後から信長様の声がして振り返る。
「信長様っ」
いつも当たり前に受け止めてくれるその胸に飛び込む。
「あまり覗き込むと落ちるぞ」
頭を撫でながら信長様は笑う。
「もう、子ども扱いしないで下さい。落ちませんよ」
拗ねながらも信長様をぎゅっーとする。
「なら、子どもではないという証拠を見せてみろ」
「えっ?...ん」
急に舌を差し込まれて絡め取られた。
「っ......ふっ」
ちゅ、ちゅく、と信長様が角度を変えるたびに水音が響き、蕩けていく。
「あっ.......ん」
思わず声が漏れて、恥ずかしくて顔が一気に熱くなる。
「確かに、子どもではこんな声は出せんな」
唇を離し、真っ赤になった私の頬に手を当てながら、信長様はからかい交じりに笑った。
「もう、いじわる」
でも、大好き。
もう少しこうしてたくて無言で抱きつく。
「アヤ、今日明日と退屈だろうが我慢しろ。針子作業もここでして良い。必要以上に部屋の外には絶対出るな」
信長様は真面目な顔で私にそう言うと、私の手を優しく振り解いて「大人しくしておれ」と再度念を押して行ってしまった。