第30章 三度目
「もちろん、恋仲のままお城に残る方です。一番大切なのは信長様で、信長様がいるから私はここにいて、信長様とお話したり、手を繋いだり出来ることが一番嬉しくて、だから、あの...」
上手に言葉を紡げないでいると、
「あっ、」
私の腕を引っ張ってかき抱かれた。
「貴様に選択肢など初めからない。側を離れるのは許さん」
「っ、だから一つ、ワガママを聞いてもらえませんか?」
「貴様のワガママなど、いつも聞いておるが、言ってみよ」
「たまに、ううん、年に一回でも、あっやっぱり三回くらい、五回は多いかな」
「早く言え」
「あの。信長様と城下にデートに行きたい....です」
「っ........」
信長様が一瞬固まった様に見えた。やっぱりだめだよね。
「あっ、やっぱりいいです。聞かなかったことにして下さい。本当は一緒にいられれば....っん」
最後まで言う前に口を塞がれてしまった。
私の顔を持ち上げる信長様の手はゴツゴツと大きくて、包まれている様で安心する。
この手に包まれることが当たり前だと思ってた。
あなたに出会った事も、思いを通わせ合う事も、一緒に過ごす事も、全て奇跡の様な事なのに。
唇が離れて見つめ合った。
「アヤ」
「っ、ずっと、こうしてたいだけなんです。ワガママばかり言ってごめんなさい」
信長様の背中に回した手にぎゅっと力を込めて、広くて逞しい胸に顔を埋める。
「ふっ、貴様にはやはり敵わん」
私の髪を梳くように指を入れて、頭のてっぺんを口付ける信長様。
「信長様?」
「力では俺に勝てなくとも、貴様はいつも言葉で俺を超えてくる。見事な一本だ」
「えっ???どう言う意味ですか???」
全然分からない??
「分からんならいい。貴様の望み通り、城下でえとをしてやると言う事だ」
「ほんとに?」
「何なら今から連れて行ってやっても良いぞ」
からかうように信長様は言う。
「えっ、今からだと用意に時間がかかるし、もう日も暮れちゃうし....」
「つべこべ言わずに来い」
あれこれ返事に迷っている私をヒョイっと肩に担ぎ上げると、あっという間に馬に乗せられて、城下へと出て来てしまった。