第29章 一本
「あの、手加減してくれますか?」
腕の中から上目遣いで聞かれれば、いいと言ってしまいそうになるが、
「貴様は阿保か、俺は生まれてこの方手加減をした事はない」
とアヤに言い返す。
「ですよね........」
分かりやすく、気落ちするアヤ。
俺は柔らかな髪に口づけ、次に出る言葉を待つ。
「方法や時間、場所は私の好きな時でいいんですよね?」
「良いと言っておる」
うーんとアヤは少し考えて、
「分かりました、頑張ってみます。じゃあ今から開始でいいですか?」
意欲的な瞳で俺を見た。
「ああ、いつでも構わん。俺に抱かれている最中でもな。まぁ貴様が俺を先にいかせられればの話だが」
「..........っ」
意地悪く耳元で囁いてやれば、たちまちその顔は真っ赤に染まる。
「話は終わりだ。そろそろ貴様に触れさせろ」
先ほどから散々煽られている俺は、アヤを褥に押し倒し、着物を剥ぎ取った。
「もう、いつも急すぎます!」
「急ではない、これでもかなり待ってやった方だ」
隠すように置かれたアヤの手をどけると、綺麗なアヤの裸体が闇夜に浮かび上がる。
引き込まれるように自分の手を滑らせると、しっとりと吸い付くようになめらかな感触が手のひらに伝わってくる。
(溺れるにも程がある)と自分でも笑えてくるが、
奪っても、奪っても、俺の体はさらに貪欲にアヤを求めてやまない。
その身も心も手に入れたはずなのに、気を抜けば誰かに持っていかれそうなほどアヤは無防備で危なっかしく、その手を離してしまったら、二度と掴めないような感覚にすら襲われる。
「アヤ、愛している。俺から離れるな」
言葉でがんじがらめにアヤを縛るように愛を囁く。
「私もです。ふふっ、愛してるって言葉、すごく照れ臭くて一生誰にも言わないと思ってましたけど、信長様にはたくさん言えちゃいますね」
「嫌い も、たくさん言われておるがな」
「っ、そうやっていじわるを言うとこが嫌いです。でも......愛してます。信長様が大好き」
微笑みながら俺の首に手を巻きつけるアヤ。
ふわりと香ってくる甘い匂いに突き動かされ、
その夜も貪るようにアヤを抱いた。