第29章 一本
当然の如く、アヤは次の日から外出許可を求めて交渉をしてきた。
可愛く強請られれば聞いてやりたいが、こればかりはいくらアヤの頼みでも聞いてはやれない。
城下の警備強化策は中々功を奏しない。
けれど、アヤは絶対に諦めない。
だから、俺の出した条件を見事達成できたら、外出許可を出してやる事にした。
条件は
「俺から一本取る事」
時間、場所、武器は、いつでも、どこでも、何でも。
背後を狙おうが、寝込みを襲おうが、湯浴み中を襲おうが、それはアヤの自由とした。
「私が信長様に勝てるわけありません!」
アヤは予想通りに顔を真っ赤にさせて怒っておったが、これはアヤを城から出さぬ為の策だ。
達成できないからこそいいに決まっておる。
「やってみなければ分からんだろう」
戦の場では、姑息な手だけは使うまいと、様々な策を弄し、時には真正面から敵を叩いて生きてきたが、アヤ相手にそんな事は言ってられない。
卑怯だと言われても構わん。アヤをこの腕に抱きしめていられるなら大したことではない。
「どうした、やるのかやらんのかはっきりしろ。城の外に出たいのであれば、俺に勝つしかない。それで無くとも貴様は隙だらけで危なっかしい。これを機に、少しは武術を磨くんだな」
〔かるちゃーすくーる〕でも、多少の護身術はやっておるみたいだが、それを披露して敵に抱きしめられ、痕を付けられておっては意味がない。
「信長様のイジワル」
悔しそうに、目頭を滲ませながらアヤは俺を睨む。
次に来る言葉も分かっておる。
「信長様なんて嫌い」(信長様なんて嫌い)
「ふんっ、嫌いで構わん」
そんな貴様にどうしようもないほど、俺は心を奪われている。
貴様を誰にも渡したくない。
触れさせたくない。
「早くどうするのかを決めろ」
我慢ができず、怒ったままのアヤを抱き寄せる。
(早く触れさせろ)